平日の三時頃、道端にしゃがみ込んで泣いている少女に出くわした。小学校の一、二年生、学校から学童保育のある児童館に行く途中らしい。赤いランドセルを背負ったその子は、その日の暑さで手に持っていたであろうコートを道に放り出して、おいおい泣いている。通りかかった私はその様子を見かねて、その子と同じようにしゃがみ込み声をかける。「どうしたの、大丈夫、どこか痛いの?」少女は首を振り尚も泣き続ける。
十メートルくらい離れた所に、同じくらいの年恰好をした女の子が二人立っている。詳しい事の次第は分からぬけれど、この両者の間に何かしらの事情があることを汲み取れる。ここまで本気で泣いているのだから、彼女にとってはのっぴきならない事があったのだろう。二人の女の子は私が少女に声を掛けると間も無く、走り去ってしまった。
二分も経ったであろうか、「これから学童に行くの?」などと話しかけている内に少女は泣き止んだ。今の今まで泣いていた少女がきっぱりと、「ありがとうございました」と言い放ち、すくっと立ち上がり目的地へ向かって歩き始めた。「おお、なんて気丈な」と思った私は「気をつけてね」と、後姿の彼女の背を声で押した。私にはこれくらいの孫がいてもおかしくない。もし自分の孫だとしたら、もっと事情を聞いてやって少女の為に何かしてやれたのではないかと、後になって悔やんだ。
苦難や困難の中にある人に、やさしい声を掛ける、心を寄せる、それはとても大切なことだろう。人は人であってまた自分なのだから、すべての人は皆つながっているのだから。少女の悲しい気持ちを少しでも和らげることが出来たのなら、こんなに嬉しいことはない。そんな事をさせて頂けたのをまた感謝しよう。しかも私は、少女からこの世で一番美しい言葉「ありがとうございます」を、気持ちを込めて言ってもらえたのだから、本当にありがたい出来事であった。